釣り堀と富士山とカツサンドの話②
「けんちゃんは良くできた子供だったよ」
予想外にも僕の面の皮は厚く、ちゃんと子供をできていた。
それは一見意外に思えたけど、考えてみれば当然だ。
そんな複雑な言葉を関係を頭で照らし合わせることなんて、8歳のぼくにできるはずがない。
ただただもやもやして、大人にはニッコリするだけだ。
スローターハウス5の主人公よろしく、8歳から21歳、そして25歳へと移動した僕は
Kさん家でビールを飲みながら、おせち料理をつついていた。
「そもそもなんで、自分はK家に預けられて釣りに行ったんですか?」
答え合わせ。
「まぁ、けんちゃんが釣りにハマってるのは聞いてたし…、お父さんは忙しいから…」
Kさんにそんな話までしてたんだ。そんな子供の趣味趣向ワガママなんて相談しなくてもいいのに。
「で、預けられて…。いやー、良くできた子だよ~。泣かないし、会うと必ず飛び込んでくるし(笑」
さっきまでの自分なら耐えられたんだけど、25にもなると、ちと恥ずかしい。
そんなに全力少年だったのね。。
「私達当時は子供いなかったしね~、これからできるとは思ってたけど」
「授かるかは運…ですもんね」
「うん」
Kさんは気にしてないということにしている。気にした時期もあったんだろうか。あったんじゃないか。まぁいいや。
Kさんが一息付くのを見て質問。
「じゃあ、予行練習みたいな感じだったんでしょうか?」
「あっそうそう。そういうのもある。」
なんか引っかかる。何かある。
「あとねー、小ちゃい子連れてくと、親戚が喜ぶんだから〜」
それは8歳のぼくにはなかった視点。
ただただ「なんでぼくはここにいるの?」しかなかった。
でも今の自分ならそれはわかる。
「でも良かったです。なんか自分ちゃんと子供できてたんだなーって」
「不安とか顔に出てなかったんだなーって」
これで20年来のモヤモヤ無事解決!
っとはならず、話は続く。
「あとね、お父さん集中させたかったし」
ん?なんの話だろう?
「えっ、なんで自分を釣りに行かせるのと、うちの親父を集中させたかったってことが繋がるんですか?」
好きは好きだけど、そんなにうるさくお父さんにせがんではいなかったはずだけど。子供だからしてたのかな?
「うーん、なんていうか…」
「ブレていたのよ」
Kさん特有の言葉を選んでいるときの間だった。ここ2時間酒を交わしていて気付いた特徴。
そして、それは全く予想していなかった答えだった。
「だからわざわざ相談してきたんだと思う」
「えっ」と心で漏らした。ちょっと出ちゃったかもしれない。
「私はお父さんに作品に集中してもらいたかったし、それで抱えてるものが少し減るならね~」
「その代わりに日曜日も仕事してもらったけど(笑」
「まぁ、WinWinだよ」
…
なんというか自分のモヤモヤした気持ちの話とかどうでもよくなってきた。それよりも、あの人がブレることがあるんだ。そのことの方が驚きで、大きな事実だった。
もしかしたら、あの人としてはあんまりそこは言いたくない所だったのかもしれない。
いや、そもそもあの人にしてみたら別にブレてるって認識はなかったのかも。Kさん視点からだとそう見えた。ってだけで。
でもまぁ、8歳の僕はその事を聞いたとしても同じような一日を過ごしたと思う。
なぜなら、ブレてるって言葉に当てはまるモノを頭の中に持っていなかったから。
それくらいぼくの世界はせまく、本当を大きいって知ることにいちいちびっくりしていた。
オチ。
「でも、結局日曜日で仕事上がんなかったんだけどね(笑」
え?
「リラックスし過ぎて終わらなかったみたい」
〆切は伸びるものだってことも今の僕なら知っている。