おもしろい事・作品

おもしろい事・作品について記述したブログです。

釣り堀と富士山とカツサンドの話

ぼくは今すごく奇妙な気持ちの中にいる。



 

別に悪いことをしているわけではない。





悪いことをした覚えもない。



けど、悪いことをして、怒られる前の時のような心地がした。

 



もしかしたら、最近何かに付けて怒られてるから、少し過敏になってるだけかもしれない。



事実だけを並べてみると、こんな気持ちになるのはおかしい。


むしろ、今は行きたかった所に行けてうれしい時の気持ちのはずなのだ。

 



実際うれしいしはずだし、楽しいはずだ。

 




だけどなんだろう、この手放しに楽しめない気持ちは。



 

「けんちゃん、ほら、富士山見えるよ~。」 



 

窓の方へ寄って行って見ると、おっきい山が立っていた。 


 


しばらくずーっと眺めていたが、その山の姿は全く変わらなかった。 



これが、おっきい山の特徴なんだろうか。




 

今、この車にはぼく(8才)と、Kさん夫婦が乗っている。

 



奥さんであるKさんはお父さんの仕事仲間であり、昔から親交がある。

 



ぼくもよく可愛がってもらっている記憶がある。 



 

少し話は戻るが、この車にはぼくとKさん夫婦が乗っている。 




 

 

つまり、ぼくの親はこの車に乗ってないのである。

 



話は数時間前にさかのぼる。
 
 
今日は 最近ずっと忙しいお父さんが、 釣りに連れて行ってくれるという約束の日だった。

 




前に友達の家族と、アユ釣りに行ったことがあって、 


それ以来釣りにはまってしまっていたのだ。


川に岩で囲ってあって、そこに放されたアユを釣るという、


ほぼ釣り堀という形ではあったが、釣れたときのあの感触は小学生のぼくにとってはとてつもないものであった。

 



それ以来、 釣りに行くというイベントは特別なものになった。 



 

その特別にまた連れて行ってもらえるとなって、ぼくは前の日からすごく楽しみな気持ちでいっぱいになった。 



 

しかも今回はお父さんと一緒なのだ。 


何が起こるんだろう。

 




で、その目的のイベントなのだが、どうやらKさん夫婦も来るらしい。

 



Kさんというのはお父さんの仕事仲間で、よくうちにも来る。 



 

いつも会うたびに可愛がってくれるし、 
話も面白いので、ぼくも含めて家族みんなKさんが大好きなのである。

 




釣り(堀)に行くというのもKさんの提案らしい。 





 

とりあえず、Kさん達との待ち合わせ場所まで、 
お父さんの運転する車で行くことに。

 




行楽シーズンのせいか、道路は渋滞していて、


待ち合わせの場所まで行くのに半日近く使ってしまった。

 



待ち合わせの場所に着くと、Kさん達が待っていた。 




 

どうやら釣り場のところまではKさんちの車で行くらしく、 


そっちの車に乗り込む。 



 

すると、お父さんがいっこうに乗ってこない。 



 

後部座席のドアが閉まる。


Kさんちの車のエンジンが点く。

 




「それじゃ、今日は1日うちの息子よろしくお願いしま~す」

 



車の外に居るお父さんがKさん達に向かって、言った。

 




「え?」

 




「わかりました~、それでは行ってきます」 


ぼくと一緒に後ろの座席に座ってるKさんが楽しそうに言った。 




 

 

こうして、ぼく(8才)とKさん夫妻とのドライブが始まった。

 

 




そうして、現在にいたる。


今はKさん(夫)の実家に向かって車を走らせている。 



 

どうやら、釣り堀に行く前にKさん(夫)の実家のトンカツ屋さんに寄ってちょっとご飯を食べるらしい。

 

 




「富士山でかいな~」

 




さっきから、 


車の右側に寄って窓をかがんで見ないと、


てっぺんが見えないほどに大きな富士山がそびえ立ってる。

 

 




別にぼくはそこまで富士山が好きというわけでもないのに、


見ているのにはワケがある。
 




なんか、変な気分なのだ。
 
 
 
よく知ってる人とは言え、親が同席してないなか家族以外の大人と一緒に居るというのは。 


まだ小さいぼくはあまり経験したことが無いので、 


自分でも理解できないような気持ちがぼくの中にあった。 




 

別に、ぼくもKさん夫婦も何も悪いことをしていない。 


お父さんも悪いことをしていない。

 



だが、気まずさとは違う何か違和感のような気持ちがそこにはあった。

 





ぼくはここにいていい人なのだろうか? 




 

もしかして、ぼくはKさん夫婦のせっかくのお出かけを 
邪魔してしまってるのではないのだろうか。

 



お父さんが最近ぼくにかまってあげれないから


無理言っておもりを頼んだのではないのだろうか。

 




こういったいろんな考えが、 


意識下と意識の間でうろちょろしてる感じがした。

 




ぼくはさっきから、こんな落ち着かない気分なのに対して、


Kさん達はなんか楽しそうだ。

 




「けんちゃん、プリッツ食べる〜?」


隣にいるKさんが顔を伺うように尋ねた。 



 

「うん! あっ、ありがとうございます。」

 



「はい、どうぞ」 


袋を開けたプリッツを差し出してくれた。

 




やっぱりサラダ味はうまい。 




 

そうこうしているうちにKさん(夫)の実家に着いた。

 



この後行く釣り堀が早く行かないと閉まっちゃうので、


予定を変更してご飯はそこで食べない事にした。

 




カツサンドを作ってもらって、車の中で食べることになった。

 




それを作ってもらっている間、


Kさん(夫)のお父さんとお母さんもいるなか、


ぼくはまたあの気持ちになり、 


借りてきた猫になるしか選択肢がなかった。

 




もしかしたら、本当にぼくはKさんちの子になっていて、 


その家の子として紹介されてしまうのではないのだろうか。

 



どこか所在なさげに過ごしたその10分は、


1時間より長く感じられた。

 




その後、Kさん(夫)実家を出て車の中でカツサンドを食べながら釣り堀に向かった。 




 

短いながら今までの人生で食べたカツサンドの中で上位に来る程のうまさだった。

 




うん、おいしい 




 

やっとの思いで釣り堀に着き、


営業時間にも間に合ったので3人で普通に楽しんで釣りをやった。

 

 




この時ばかりは、釣りに夢中になって余計なことを考えずにすんだ。
 
 


釣りが終わった後、釣った魚を持ち帰り帰路に着いた。

 




帰りの車では自分の家に着くまで寝てしまった。


理由は



 

疲れていたのと

 



隣にいたKさんの肩に


なんだか寄りかかりたくなったからだ。

 




家に着くと同時に今日考えてたことが全て解消され、安心したせいか、その日あったことを思い出すことはしばらくなかった。
 
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10年以上たった今になってその事を思い出し、あれは何だったのか 


親父に聞き出してみた。 



 

こんな答えが返ってきた。 



「あれは、


俺は息子と遊んであげる時間がない。


Kさんは子供と一緒に出かけてみたくて、しかも時間がある。


ってわけでちょうど良かったから、差し出したんだよ。」

 




聞いてて少し気になることが出てきたので、聞いてみた。

 




「Kさんて今も子供いないよね?」 



 

「あ~、いないよ」

 




わかった。 




 

自分が何を知らなくて、Kさん達と親父がどんな考えだったのかを。 




 

そして、今の自分ならそれがどういうことなのか理解できるということも。